【Storys】日本とダラス―変わりゆくW杯と変わらない絆

過去最大規模で行なわれたFIFAワールドカップ2026 北中米大会。アメリカ・メキシコ・カナダによる3ヶ国の共催、最多48の参加枠と全104試合という長丁場、試合を実質クオーター制にしたハイドレーションブレークなど、何から何まで初物尽くしとなった大会だったが、終わってみれば史上最多の680万人を動員。全世界のGDPをおよそ409億ドル(※約6兆円)ほど押し上げ、最終的な経済波及は800億ドルにのぼるとされている。これらの数字だけ見れば、間違いなく大成功と言わざるを得ない。しかしその反面、観戦チケットの常軌を逸した価格高騰が問題視され、随所に目立つ過度な商業化や競技への政治的介入が大会の盛り上がりに水を差した―。

 

 

W杯開幕直前にULTRA’ NIPPONはメジャーリーグ・サッカー(MLS)に所属するFCダラスのサポーターグループ、ダラス・ビア・ガーディアンズ(DBG)と特別な1枚を制作した。FCダラスと日本代表、両者をイメージしたシャツを半分ずつ中央で繋ぎ合わせた『スプリットキット』と呼ばれるものである。彼らはシャツのデザインについて、次のように説明する。

 

「最終的にキットのデザインを担当した植田朝日氏と協力し、私たちは両国のアイデンティティを1つの作品に融合させた。ダラスと日本、まさに真ん中で分かれたようなデザイン。混ざり合うことも、薄められることもなく、それぞれが独自のアイデンティティを持ち、平等に表現されている。一方の文化が他方を吸収するのではなく、2つの文化が互いを尊重し合いながら融合しているんだ。」

(※“The Story Behind the “2026 – Dallas Is Home” Split Kit” / dallasbeerguardians.com)

 

2026年4月に発売された、CORAZON製のULTRA’NIPPON×DBGのコラボシャツ。日本代表とFCダラス、両者をモチーフにしたデザインが半分ずつ結びついている特徴的な1枚。

 

テキサス州北部にある商業の中心地、ダラス。今回のワールドカップにおいてはグループステージで2試合戦う日本はもちろんのこと、同じF組のライバルであるオランダやスウェーデン、L組のイングランドとクロアチア、J組のアルゼンチンやオーストリア、ヨルダンと、アメリカで開催される全16都市の中で最も多くの試合が行なわれる場所でもある。

 

今回ULTRA’ NIPPONは日本からのサポーター達のため、ダラスに前線基地を用意した。街の中心部ダウンタウンにあるスポーツバー『Harwood Tavern』と提携関係を結び、店舗内にULTRA’ NIPPON OFFICIAL DALLAS BASEを開設。期間中は地元の有名ブリュワリー『Peticolas Brewing Company』とのコラボビールを提供できるようにした。試合前日には自治体と協力した無料イベントを開催。豪華ゲストを招いたオランダ戦前の決起集会には約3,000人、スウェーデン戦前には約5,000人と予想を上回る参加者が集まり、日本サポーターの士気を高めただけでなく貴重な情報交換の場や異文化交流の機会を生み出している。

 

ULTRA’NIPPONがスウェーデン戦前夜に開催した、『ULTRAS2026 in DALLAS』。ダラス市の協力の下「PAINT IT BLUE(青く塗れ)」と題された決起集会は、日本の夏祭りをイメージした無料イベントに。国内のみならず、海外メディアにも大きく注目された。

 

そして、これらイベントの成功の立役者こそ地元のフットボールコミュニティ、特に前述のDBGの存在が大きい。なぜ彼らはここまで協力的なのか。その理由は2024年まで遡る。グループのメンバー数人が来日した際にJリーグを観戦、日本のサポーター文化の熱量に驚き、手厚いもてなしにいたく感激したという。その後ワールドカップのグループ分けが決まり、自分たちの街に日本代表がやって来ると知った時、日本人に受けた恩を返す絶好の機会と考えたというのだ。

 

「サポーターを心から歓迎するとはどういうことか、あらゆることを考慮に入れた。何百人もの日本代表サポーターが訪れるにあたり、まるでダラスが故郷のように感じられるようにしたいと思っていた。」

(※“The Story Behind the “2026 – Dallas Is Home” Split Kit” / dallasbeerguardians.com)

 

FCダラスサポーターと交流を深める植田朝日氏。(※dallasbeerguardians.com)

 

だが、彼らが愛するFCダラスには、ペタル・ムサというクロアチア代表のエースがいる。さらにハイチ代表FWのルーシャス・ディードソン、スウェーデン代表MFのハーマン・ヨハンソンなど本大会にも参加している選手が所属しており、現地のフットボールファンが彼らの国の代表チームを応援してもおかしくないはずだ。それでもDBGは「日本からダラスにやってくるサポーター達は、単なる観光客ではない」と言い切る。

 

アメリカナイズされたW杯ビジネスは、今後さらに拡大していくことだろう。それ自体は決して悪いことではない。だが、その過程でフットボールという文化の形を歪め、大会の開催意義すら揺らぎかねないことに多くの不満や懸念が生まれたのも事実である。その一方で変わらないものもあった。フットボールを通じて生まれる、国境を越えたファン同士の絆である。日本とダラス、互いの文化を尊重し合い、1度結びついたら決して離れることのない友情の証。『2026 – Dallas Is Home』と名付けられた1枚のシャツに、色あせないフットボール文化の魅力が存分に詰まっている。